ご来訪ありがとうございます。
『清少納言に恋した男』拓麻呂でございます。
世界最古の女流随筆集『枕草子』。作者はご存知、清少納言。
今回は有名な、『春はあけぼの・・』から始まる最初の章段。
枕草子は清少納言が目にした、四季の情景から始まります。普通、春と言えば桜、秋と言えば紅葉などの情景が頭に浮かぶのではないでしょうか?
しかし、清少納言が目撃した四季の情景は、普通とはちょっと違った視点で描かれているのです。
春は明け方。夏は夜。
秋は夕暮れ。冬は早朝。
このように四季の情景を、時間軸で表現しているのです。
まだ写真など存在しない平安時代。
しかしながら、枕草子の冒頭は、春夏秋冬の一瞬をカメラで捉えたかのような感覚さえ覚えます。
古文? 品詞分解? 歴史的仮名遣い?
そんな専門知識が無くたって『枕草子』は楽しめる!!
今回は、清少納言が枕草子に残した四季の写真を見ていくことにしましょう。
なお原文と現代語訳、簡単な解説のみ知りたい方はこちらをご覧ください。

~四季の一瞬を切り取った枕草子~
清少納言が捉えた春の情景
まずは有名な枕草子 一段の冒頭部分。
季節は春、時間は早朝。
この瞬間に清少納言のカメラはシャッターを切りました。
春は曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明かりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる
では、春の情景を見ていきましょう。
春は明け方が最高!
徐々に白み始める空、
遠くに見える山の稜線が少しだけ明るくなり始める風景。
その周りに紫がかった細い雲がたなびいている景色は最高。
このように、空が白み始める日の出の一瞬を切り取っています。
ここで特筆すべきは『徐々に』白み始め、『少し』明るくなったという表現。
この『少し』という表現が加わる事で、日の出の一瞬が一層際立っています。
単に『空が明るくなり始めた』と言うより、『空が少しだけ明るくなり始めた』と表現する方が、その情景がイメージしやすいですよね。
春の早朝、少しだけ明るくなり始めグラデーションがかった明け方の空。
その一瞬を清少納言は枕草子というカメラで切り取りました。
清少納言が捉えた夏の情景
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがいたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くも、をかし。雨など降るも、をかし
続いて夏の情景。
清少納言は真っ暗な闇の中でシャッターを切りました。
夏は蒸し暑い夜がいいのです!
月が浮かぶ夜は当然風情があります。
でも、月明かりもなく闇に閉ざされた夜も良いもの。
漆黒の闇に見えるのは飛び交う蛍の光。
沢山飛び交っている光も良いし、
一匹、二匹だけの光も風情がある。
雨が降っている時も、また風情があるよね!
ここで特筆すべきは、やはり蛍の光でしょう。
月明かりも無く真っ暗な夜に、飛び交う蛍。
そこに見えるのは、幻想的は光の演出。
蒸し暑い夏の夜に、蛍の光が織りなす光の芸術。
その一瞬を清少納言は枕草子というカメラで切り取りました。
清少納言が捉えた秋の情景
秋は夕暮れ。夕日のさして、山の端いと近こうなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた、言ふべきにあらず
続いて秋。
清少納言は、夕日でオレンジ色に染まった空に向ってシャッターを切りました。
秋の夕暮れがいい・・・
遠くに見える山の稜線に日が沈みかけている。
夕日に染まった空を飛ぶのは、寝床に帰るカラスの姿。
実に趣があります。
空を飛ぶ雁(かり)の群れが小さくなっていくのも、また趣がある。
日が沈み、風の音や虫の音が聞こえるのも良いね。
この記事が捉えたのは、日が沈みかけた空を飛ぶ鳥たちの姿。
オレンジ色の空に見えるのは、カラスや雁のシルエット。
寝床に帰る鳥たちの姿には、どこか哀愁が漂う。
カラスの声が聞こえてきそうな、ちょっと切ない秋の夕暮れ。
その一瞬を清少納言は枕草子というカメラで切り取りました。
清少納言が捉えた冬の情景
冬はつとめて。雪の降りたるは、言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、炭櫃火桶の火も白き灰がちになりて、わろし
最後は冬の早朝。
この時の清少納言は、ひどく寒い冬の一コマを動画に撮りました。
冬は早朝がいい!
雪の降る日はもちろん風情があるし、
白い霜が降りている日ももちろんのこと。
とっても寒い日の朝。
火を起こすため、大急ぎで炭を運んでいる風景も趣がありますね。
でも、昼間になって燃え尽きた白い炭がほったらかしになっているのは、
ちょっとだらしなくて嫌・・・
この冬の情景で面白いのは、寒さに耐えかねて大急ぎで暖をとろうとする人々の姿。
そして、少し暖かくなってきて昼下がりに放置された白い炭。
これまでは、季節の風景を切り取ってきましたが、冬の風景では生活の一コマが記されています。
現代でも冬の朝の寒さは、体に堪えますよね。
なかなか布団から出られない方も多いのではないでしょうか?
寒さに耐えかねた人々のドタバタ感が伝わってくる冬の早朝。
その一コマを清少納言は枕草子というカメラで動画に残しました。
で、その後に燃え尽きた火鉢の白い炭に向ってシャッターを切りました。
ちょっと切なさを感じながら・・・。
清少納言が感じた春夏秋冬
以上が清少納言が感じた四季の情景です。
枕草子は今から約1000年前に書かれています。当然カメラなどは存在していないのですが、四季の一瞬を写真におさめたような素晴らしい情景表現と言えるのではないでしょうか。
写真技術など無い平安時代の風景を、清少納言は枕草子というカメラと通して現代に伝えてくれるのです。
最後にもう一度、枕草子 一段の原文を記載します。清少納言が枕草子におさめた四季の写真(動画)を思い浮かべながら読んでみてください。
きっと1000年前の四季の情景が頭に浮かんでくることでしょう。
春は曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明かりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる
夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光て行くも、をかし。雨など降るも、をかし
秋は夕暮れ。夕日のさして、山の端いと近こうなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた、言ふべきにあらず
冬はつとめて。雪の降りたるは、言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、炭櫃火桶の火も白き灰がちになりて、わろし
※参考:枕草子 一段『春はあけぼの』より
枕草子 一段『春はあけぼの』原文とそのまま現代語にした記事はこちら

意外と知らない『春はあけぼの』の次のお話はこちら

春はあけぼのだけじゃない枕草子
あまりにも有名な枕草子一段『春はあけぼの』ですが、枕草子にはこの他にも楽しくて魅力的なお話が沢山書かれています。
現代人も共感でき、教訓にもなる枕草子。
清少納言のちょっと笑える失敗談が書かれている枕草子。
清少納言の大切な想い出が記されている枕草子。
是非『春はあけぼの』以外の章段にも触れてみてください。新たな枕草子の魅力を再発見でき、そして意外な清少納言の姿が見えてきますよ。

では、今回はこの辺で!ありがとうございました。