藤原定子の女房を代表するのは清少納言。しかし、定子の女房って、清少納言の他にはどんな人がいたのでしょうか?
彰子の女房は、紫式部が日記にいろいろ書いているので結構有名なのですが、定子に仕えた女房って、清少納言以外はあまり知られていないのかなと感じます。
ところが、枕草子をよく読んでみると、たびたび登場する女房が確認できるのです。定子に仕えた女房は、清少納言の他に誰がいたのか?
その中から、今回は『中納言の君』という女房についてお伝えします。
※枕草子の章段数は、史料によって異なります。この記事では、勉誠出版 枕草子大事典の章段数を採用しています。
中納言の君のプロフィール
中納言の君は、定子に仕える古参女房。
定子の父 藤原道隆の叔父の娘です。
つまり、中納言の君は道隆の従妹であり、道隆世代であったと思われます。
なので、清少納言より年上のベテラン女房だったのでしょう。
このように、血縁関係なため、かなり高貴なランクの高い女房でした。
女房には階級があり、大きく分けて三段階『上臈(じょうろう)』、『中臈(ちゅうろう)』、『下臈(げろう)』に分けられます。ちなみに、清少納言は下臈だったようです。
中納言の君は、もちろん『上臈女房』でした。ちなみに小柄で太っていたそうです。
枕草子における中納言の君
枕草子で、中納言の君が登場する章段は全部で4つ。
91、124、257、262段です。
二五七段『十月十日よいの月のいと明きに』
とくに印象的なのは、257段『十月十日よいの月のいと明きに』。
中納言の君は、長い髪の毛を首の前に持ってきて垂らしていたところ、『新しい卒塔婆』に似ていると、女房たちにコソコソ笑われるシーンがあります。
『新しい卒塔婆に似ている』とは何たる言われようかとも感じますが、ともかくも中納言の君を物に例え、みんなでイジって笑いが生まれているという、定子周辺の楽し気な雰囲気が伝わっていますね。
なお、この時の中納言の君は、笑われていることに気づいていなかったようです。
一二四段『関白殿、黒戸より出でさせ給う』
また、124段『関白殿、黒戸より出でさせ給う』では、中納言の君が物忌み(穢れを避ける期間)だったため真面目にしていたところ、清少納言らが面白がって中納言の君が持っていた数珠を借りようとして、みんなで大笑いになっている場面があります。
これも、現代の感覚だと笑いのツボが分かりにくいのですが、要は物忌みで真面目にしていた中納言の君を茶化して遊んでいる感だと思われます。
こういう、ちょっとした悪ふざけって、現代でもありますよね。ここでも定子後宮の雰囲気がなんとなく伝わってきます。
九一段『ねたきもの』
91段『ねたきもの』では、中納言の君のしっかりした一面をみることができます。
急ぎの縫物があるということで、女房たちが裁縫をしている最中、だれが一番早く縫えるか競争になる場面が枕草子に存在します。
その時「命婦の乳母(みょうぶのめのと)」という女房が一番に縫い終わるのですが、よく見ると裏返しに縫っていて、しかも縫い目が雑でした。
これを見た清少納言らが面白がって大笑いして、みんなの手が止まってしまう中、中納言の君は『笑っている場合ではないでしょうに・・・』と言って、間違えた縫物を手繰り寄せ、ブツブツ言いながら直し始めたそうです。
中納言の君は、周囲がふざけいる中でも、しっかり仕事をこなそうとするしっかり者だったようですね
二六二段『関白殿、二月二廿一日に』
最後にご紹介するのは、262段『関白殿、二月二廿一日に』。
この段では『積善寺供養』というイベントが催されます。定子の父 藤原道隆が主宰なので、当然定子やその女房たちも参加してます。
この積善寺供養を、中納言の君は同僚の女房(宰相の君)と一緒に、特別席で観覧していました。中納言の君は、上臈女房なので特別観覧席で見物できるのです。
すると、そこに中臈女房の清少納言がやってきて、中納言の君と宰相の君の間に入り、ちょっとキツさを感じながら、三人並んで観覧することになりました。
なんか清少納言が厚かましく感じますが、これには裏があって、清少納言が宮仕えを始めて日が浅かったこと、清少納言が定子のお気に入りだったことなどの理由があります。
つまり、清少納言を気遣う定子の許可があった上での行動なのでした。
なお、この章段は、作中でも最も華やかさに満ちている内のひとつで、定子一族の絶頂期を描いた章段として非常に有名です。枕草子で一番紙幅が割かれている最長章段であり、枕草子が持つ華やかさの極みを堪能できる内容になっています。
いじられ役?の中納言の君
このように、中納言の君が登場する章段を見ていくと、262段を除き全て『笑い』に包まれていることに気付かされます。
卒塔婆に似てると言われたり、真面目にしてたら数珠を貸してほしいと言われたり。
これは僕の想像ですが、中納言の君はなんとなく、いじられ役のような感じだったように感じます。
清少納言からしてみれば、古参でありながら、場の空気を和ませる先輩女房と言った感じでしょうか。
それでありながら、裁縫のエピソードに見られるように、締めるところは締める古参らしさも合わせ持った女性だったのかなと思います。
こういった、ちょっと賑やかな雰囲気が、定子後宮の特徴です。そこに清少納言の性格がカチッとハマったからこそ、枕草子はいつも『笑い』に包まれているのではないでしょうか。
中納言の君まとめ
以上、定子の女房『中納言の君』の人物像でした。
定子の女房には、清少納言や中納言の君の他にも『宰相の君』とか『小兵衛』とか『源少納言』といった人たちがいます。
定子の女房と言うと、どうしても枕草子の印象が強いため清少納言まがりが思い浮かびますが、実は彼女以外にも魅力的な女性がたくさんいたんですね。
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