平安時代の楽器や笛の種類とは?笛の豆知識と平安貴族の音楽の楽しみ方

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平安時代の女性たち

平安時代を代表する教養や娯楽の一つに「管弦(かんげん)」があります。

楽器を奏で音楽を楽しむとともに、管弦は平安貴族の必須教養でもありました。

 

そんな平安時代の音楽を奏でる為の楽器にはどんな種類があり、そしてどのように楽しんでいたのでしょうか?

 

この記事では、平安時代を代表する楽器や音楽についてわかりやすくお伝えします。

 

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平安時代を代表する楽器とは?

まず初めに、平安時代を代表する楽器をご紹介します。

その楽器たちは、大きくわけて「管楽器」、「弦楽器」、「打楽器」の3種類に分類できます。

 

それぞれをさらに細かく分類していくと以下のようになります。

・笛(管楽器)→「横笛(よこぶえ)」、「篳篥(ひちりき)」、「笙(しょう)」
・琴(弦楽器)→「和琴(わごん)」、「琵琶(びわ)」、「筝(そう)」
・鼓(打楽器)→「羯鼓(かっこ)」、「太鼓(たいこ)」、「鉦鼓(しょうこ)」

 

笛は男性だけが嗜む楽器だった

これらの楽器の中でも「笛」に関しては、男性だけが演奏する楽器でした。

現代のように、男女問わずに楽しめる楽器では無かったんですね。

 

それを示す記述が「とりかえばや物語」という、当時の作品で確認できます。

 

とりかえばや物語を簡単に解説すると、「元気溌剌な女の子」と「内気でおとなしい男の子」という男女入れ替わったような性格をした2人の子供のお話しです。

 

この2人の子供は、「男装した女の子」、「女装した男の子」、という形で男女入れ替わって育てられるのですが、その中での苦悩や道を切り開いていく様子が描かれるという、現代でもよく話題になるような内容となっています。

 

とりかえばや物語の記述 その1

そんな「とりかえばや物語」に、こんな記述があります。

該当箇所のみ抜粋してお伝えします。

姫君は、とてもいたずら好きで、めったに部屋にいることもなく、もっぱら外にいらっしゃって、若い男や童などと一緒に鞠や小弓などでばかり遊んでいらっしゃる。

客間にも、人々が参上して漢詩を作ったり笛を吹いたり歌を唱ったりしていると、その場に走り出していらっしゃって、誰が教えたわけでもないのに一緒に琴や笛を上手に吹いたり引き鳴らしたりなさる。

※角川ソフィア文庫「ビギナーズクラシックとりかえばや物語」より抜粋

 

この記述は姫君(元気溌剌な女の子)が子供だった頃の出来事です。

ここからは、姫君(元気溌剌な女の子)が、男の子たちに交じって遊んでいたことや、笛の才能に長けていたことがわかりますね。

 

とりかえばや物語の記述 その2

そして重要なのが次のご紹介する記述です。

再び該当箇所のみ抜粋してお伝えします。

 

(女君は)身に離さず持っていらっしゃった笛を、心細い思いのままに、一段と吹き立てなさる。じつは、幼い頃からずっと手にしていらっしゃった横笛だけは、これを吹くことができなくなる悲しさはどんな思いにも劣らぬという気持がして、ここまで持っていらっしゃったのだった。

※角川ソフィア文庫「ビギナーズクラシックとりかえばや物語」より抜粋

 

この記述の背景を簡単に解説すると、これまで男装をして生きてきた女君(元気溌剌な女の子)でしたが、とある出来事かあって妊娠したため、宇治に身を隠すことになります。

その際に、「これからは女として生きていかなければならない」と、今後の人生を思って悲しみに暮れている状況です。

 

つまり「男装を捨てこれからは女性として生きていく、そうなると笛が吹けなくなる」という状況を、女君は憂いているわけですね。

 

こういった記述から、笛は男性だけが奏でるものだったということがわかるのです。

 

笛の達人

このように男性が吹く楽器だった笛ですが、実際に笛の名人と伝わっている人物も男性だったりします。

 

例えば、第66代天皇の一条天皇は楽器への嗜みが深く、珍しい名前の楽器をたくさん持っていたことが枕草子の八九段「無名という琵琶の御琴を」という章段に書かれています。

また、二三〇段「一条の院をば」や、二七六段「日のうらうらとある昼つ方」といった章段では、実際に一条天皇が笛を奏でている場面があり、その音色の美しさが語られています。

 

あるいは源経房という人物も笛の達人であったと伝わっています。

ちなみに、この源経房は、枕草子が世に出るキッカケを作った人物としても知られています。

 

このように、笛の名手と言われる人物が男性であったことからも、笛を吹くのは男性であったことが分かるのではないでしょうか。

 

枕草子に見る音楽の楽しみ方

つづいて、清少納言枕草子にも、笛に関する興味深い記述(二〇七段「笛は」)があるのでご紹介します。

※章段数は「角川ソフィア文庫 新版枕草子 下」より。また、現代語訳は「講談社学術文庫 枕草子 中」を参考に一部わかりやすく意訳しています。

 

「横笛」、「笙」、「篳篥」全てに対する記述があるので、それぞれ一部抜粋して確認してみましょう。

 

趣のある横笛

まずは「横笛(よこぶえ)」から。

 

清少納言
清少納言

笛は横笛がとても趣があります。

遠くから聞こえてくるのが、だんだん近づいてくるのもすごく趣があります。近かったのが遠くになって、かすかに聞こえるのも趣があります。

 

清少納言
清少納言

夜に訪ねてきた男性が明け方などに笛を置き忘れて、枕元にあったのを見つけた時もやはり趣があります。

参考:「講談社学術文庫 枕草子 中」

 

これらの記述から、笛は常に持ち歩いていたことがわかります。

また、置き忘れた笛の記述からも、笛は男性が吹くものだったことがわかりますね。

 

清少納言と一夜を共にした男性が、きっと素敵な音色を奏でくれたのでしょう。

そんな笛の音にうっとりする清少納言の姿が思い浮かぶとともに、置き忘れて行った笛から一夜の素敵な想い出を連想していたのかもしれませんね。

 

素敵だけれど扱いづらそうな笙

続いて笙(しょう)について。

 

清少納言
清少納言

笙は、月の明るい晩に牛車などで、ふと耳に出来たときは大変趣深いものです。

ただ、笙はたいへん大きくて取り扱いにくそうに見えます。

そんな笙を吹く時は、どんな顔をしてるのでしょう?

参考:「講談社学術文庫 枕草子 中」

 

笙に対しては趣を感じつつも、ちょっとした疑問も感じているようです。

ちなみに笙という楽器は、以下のようなものです。

雅楽の演奏の映像などで見たことがある方もいらっしゃるかと思いますが、笙は顔面の前に持ってきて吹くので、清少納言の言う通り確かに顔が見えづらいです。

 

笙の音色に趣を感じつつも、吹いている人の顔が気になってしまうという着眼点が、いかにも清少納言らしくて非常に面白いなと感じます。

 

さんざんな言われような篳篥

最後に篳篥の記述を見て行きましょう。

ちなみに、篳篥はこんな感じの楽器です。

横笛がその名の通り横にして吹くのに対し、篳篥は縦にして吹きます。

わかりやすく例えるなら、小さ目のリコーダーのような感じです。

 

そんな篳篥、清少納言にとってはあまり良い印象の楽器ではなかったようです。

清少納言
清少納言
 
 

篳篥はたいそうやかましく、秋の虫に例えるならばクツワムシのような感じで、不愉快で間近では聞きたくもない。

横笛と笙に関しては、とても良いイメージを持っていたようですが、篳篥に関しては全く異なる印象を抱いていたようですね。

 

その音色を「クツワムシ」とまで言い放っていますが、動画などでクツワムシの鳴き声を聞いてみると、確かに趣深くは無いように感じます。

ですが、個人的には篳篥の音色にはあまり似ていないような気もするのですが、こういった感性が枕草子の楽しさでもあると思っています。

 

この辺の感じ方は人それぞれかとも思うので、清少納言のように感じるかどうか、ぜいクツワムシの鳴き声と篳篥の音色を、動画配信サービスなどで聴き比べて見てください。

 

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平安時代の楽器や音楽まとめ

以上、平安時代の楽器や音楽でした。

 

まとめると、当時の楽器の主な物には、

・笛(管楽器)→「横笛(よこぶえ)」、「篳篥(ひちりき)」、「笙(しょう)」
・琴(弦楽器)→「和琴(わごん)」、「琵琶(びわ)」、「筝(そう)」
・鼓(打楽器)→「羯鼓(かっこ)」、「太鼓(たいこ)」、「鉦鼓(しょうこ)」

といった種類がありました。

 

この中でも笛に関しては、とりかえばや物語や枕草子の記述から、男性が奏でる楽器であったことがわかります。

 

清少納言がうっとりしていた、当時の人々の奏でた笛の音色を聞いてみたいものですね。

 

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