枕草子 一八四段『宮にはじめてまゐりたるころ』②【現代語訳と原文】

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平安時代中期に書かれた枕草子。作者は清少納言。

 

清少納言が初めて宮廷に出仕した頃のことが綴られている章段・・・

 

ですが、この一八四段は非常に長いので二回に分けて紹介しています。

前半はこちらです。

枕草子 一八四段『宮にはじめてまゐりたるころ』①【現代語訳と原文】
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この記事で紹介する内容は一七九段『宮にはじめてまゐりたるころ』の最後に記されている『くしゃみ』が原因で起こった清少納言と定子のちょっと面白いやりとりです。

 

枕草子 一八四段『宮にはじめてまゐりたるころ』の余談とも言える内容を見ていきましょう。

 

 

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枕草子 184話その② ~くしゃみを巡る勘違い~

 

私がまだ宮仕えをして間もない頃、中宮様が、

『少納言は私のことを大切に思ってくれているか?』

と仰られたので、私(清少納言)は、

『もちろんですよ』

と答えた途端、台盤所の方から大きな、くしゃみが聞こえてきました。

 

すると中宮様は、

『まぁ、いやだ、心にも無い事を言ったのね。お前のきもちはよ~く分かりました』

と仰って部屋の奥へ行ってしまわれた・・・。

 

私は心の中で、

『嘘じゃありませんよ、中宮様を大切に思わないことなどありましょうか。くしゃみをした者こそ嘘をついているのに・・・』

と思ったのです。

 

それにしても、私の言葉に合わせてくしゃみをしたのは何者だろう?なんとも憎らしい事をしてくれたものだ。そもそも、くしゃみが出そうな時は我慢するものなのに、よりによって、あのタイミングでくしゃみをするとは本当に憎たらしい。

 

とは言え、私は新参者なので中宮に弁解する機会も無いまま夜が明けてしまいました。

 

なので結局、自分の部屋に戻ったのですが、帰ってきた途端、淡い緑色の薄い紙といったお洒落な手紙を文遣いが持ってきました。

 

それは中宮様からの手紙。さっそく読んでみると一首の和歌が書いてありました。

 

『如何にして 如何に知らまし 偽りを 空に糺の 神無かりせば』

(お前が私の事を大切に思っていることが本当であることは、どうすれば知る事ができるのか。あのくしゃみは糺の神が、お前の言葉を偽りだと言っているのだろう)※糺の神とは賀茂神社の御祭神のこと。真実と嘘を見分ける神様。

 

この和歌の後には、これが中宮様のお気持ちと書いてありました。

 

中宮様から、和歌を頂いたことは大変喜ばしいことですが、あのくしゃみを中宮様が信じてしまったことは、やっぱり癪で憎らしい。あの場で、犯人をとっ捕まえて真意を質しておくべきであった・・・。

 

そこで私は中宮様に和歌をお返し致しました。

 

『薄さ濃さ それにもよらぬ花故に 憂き身のほどを 見るぞ侘しき』

(花は色が濃いか薄いか、実が生るかどうかで優劣が付きます。私の想いがくしゃみなどによって、中宮様に誤解を与えていることは実に残念です。信じてもらえない我が身の辛さは本当に詫びしいものです)※花が鼻(くしゃみ)、身が実にかかっている。

 

『私の本当の想いを何としても中宮様にお伝えし、誤解を解きたい。嘘をつくなど恐れ多いことです』

と、最後に添えて中宮様に差し出しました。

 

それにしても、あの時、絶妙なタイミングでくしゃみをしたのだろうと、不思議でたまらない。

 

 

枕草子 一七九段の個人的解釈

以上が、枕草子 一七九段『宮にはじめてまゐりたるころ』の最後に書かれている内容です。

 

一貫してくしゃみを巡るやり取りと、清少納言の憎しみが記されています。

 

まずこの内容を理解するためには、当時の『くしゃみ』を知る必要があります。

 

当時、『くしゃみ』は思っていることが嘘である前兆とされていました。

 

現代でも『くしゃみ』は誰かに噂されている予兆とされていますが、その名残なのかもしれません。

 

枕草子には清少納言と定子の相思相愛な関係が多く書かれていますが、宮仕え当初はこんな勘違いもしていたんですね。

 

なお、この章段ではこの後のことは書かれておらず、結局誤解が説けたのかどうかは、他の章段から察する他ありません。

 

しかしながら、枕草子に書かれた定子との微笑ましいエピソードを見る限り、きっと誤解は解けたのでしょう。

 

なお、この章段前半部の解釈はこちらをご覧ください。

枕草子 一八四段『宮にはじめてまゐりたるころ』①【現代語訳と原文】
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では、今回はこの辺で!ありがとうございました。

 

なお、枕草子 一七九段『宮にはじめてまゐりたるころ』原文はこの後に書いてます。

 

 

【原文】 枕草子 一八四段 ~宮にはじめてまゐりたるころ②~

ものなどおほせられて、『我をば思ふや』と問はせたまふ御答へに、『いかがは』と啓するにあはせて、台盤所の方に、はなをいと高うひたれば、『あな心憂。そら言を言ふなりけり。よしよし』とて、奥へ入らせたまひぬ。いかでそら言にはあらむ、よろしうだに思ひきこえさすべきことかは、あさましう、はなこそそら言はしけれ、と思ふ。

さても、誰が、かくにくきわざはしつらむ、おほかた心づきなしとおぼゆれば、さるをりも、おしひしぎつつあるものを、まいていみじうにくしと思へど、まだうひうひしければ、ともかくもえ啓し返さで、明けぬれば下りたるすなはち、浅緑なる薄様に艶なる文を『これ』とて来たる、開けて見れば、

 

『【いかにして いかに知らまし 偽りを 空に糺の 神なかりせば】となむ、御けしきは』とあるに、めでたくもくちをしうも思ひ乱るるにも、なほ昨夜の人ぞ、ねたく、にくままほしき。

 

『【薄さ濃さ それにもよらぬ はなゆゑに 憂き身のほどを 見るぞわびしき】なほ、こればかり啓し直させたまへ。式の神もおのづから。いとかしこし』とて、まゐらせて後にも、うたてをりしも、などてさはありけむと、いと嘆かし。

 

※読みやすさを考慮し、適宜改行しています。