枕草子 九五段『ねたきもの』【現代語訳と原文】

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平安時代中期、清少納言が書き残した『枕草子』。

 

そんな枕草子に記された宮廷の日常風景。

 

今回は、裁縫のスピードを競い合う女房たちの姿を見てみましょう。

 

※枕草子の章段には諸説あることをご了承ください。

 

 

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現代版枕草子 95話 ~癪にさわるもの~

 

こちらから書いた手紙(和歌)でも、もらった手紙の返事でも、送った後で直したくなった時は癪だ。

 

急いで着物を縫っている時、「うまく縫えた!!」と思ったのに、針を引き抜いたら糸の尻を結んでおらず、糸がすっぽ抜けた時。

また、裏返しに縫ってしまった時も癪だ。

 

東三条の南院(道隆邸)に中宮定子様がいらっしゃる時の出来事。

「急ぎのお召し物があります。女房たち手分けして、すぐに縫って差し上げなさい!」との事だったので、女房たちが南の部屋に集まって、みんな近くにいるのに向き合う事もなく、お召し物の片身ずつを、誰が早く縫い終わるか競い合っている様子は、まるで子供のようでした。

 

命婦の乳母(女房の一人)がいち早く縫い終わったが、縫ったのが逆であることに気づかず、糸の縫い止めもきちんとぜず、大慌てで(お召し物を)下に置き立ち上がったのは良いけれど、背中を合わせてみたら見事に食い違っている。

 

これには女房一同、大笑いで騒ぎ立て「早く縫い直してください」とお伝えしたけれど、命婦の乳母は

「誰が直すもんですか!綾などならば模様もあるから表裏を確かめないような人でも納得して直すでしょう。でも、このお召し物は無文(柄なし)なのだから、何を目印にすれば良いのですか?まだ縫っていない人に直させてください!」

と言って聞く耳を持たない。

「そんなこと言ってる場合ですかっ!」と源少納言と中納言の君といった女房たちが、渋々お召し物を引き寄せて縫い直している光景は、とても面白いやり取りだった。

 

風情のある萩やススキなどを庭に植えて眺めていたら、長櫃(大きめの箱)を持った者が鋤を下げて現れ、(萩やススキを)堀り取って去っていく光景は癪にさわる。

男が(その場に)いる時はそんなことしないくせに、一生懸命に注意しても女だけだと侮って「少しだけですから」となどと言い、堀り取っていく者を止められないのは本当に癪だ。

 

受領(※1)の家などに、立派な家の下っ端などがやって来て、失礼なことを言い「無礼な事を言ったからって、我々をどうにかできるものではなかろう」と開き直っているのは、とても憎たらしい。

 

今すぐ読みたいと思っている手紙を横取りして、庭に降りて読んでいる者の姿はひどく憎らしい。追いかけたくても、御簾の外には出られず(※2)見ていることしか出来ない。今にでも飛び出して行きたいのに・・・。

 

※1.受領とは現代で言うと地方の役人みたいなもの

※2.当時の宮廷女性は御簾の外に出て顔を見られることは、品の無い事とされていました。

 

 

 枕草子 九五段の個人的解釈

この章段は手紙の事からはじまり、裁縫での失敗談、そして女房たちの裁縫風景が描かれています。その後も、ススキを刈り取っていく男の話や、手紙を横取りされた話が続きますが、やはり印象的なのは、裁縫中の賑やかな風景でしょう。

 

この辺の事は、こちらの記事で詳しく書いてます。

枕草子に記された清少納言のお裁縫!真剣勝負の中にも笑いのある風景!
...

 

章段のタイトルは「ねたきもの(癪なもの)」ですが、話の中心には、清少納言が「をかしかりしか(面白かった)」と感じたことが書かれています。

 

章段のタイトル通り、癪なものの描写もリアルで見事と言う他ありませんが、裁縫風景の一コマが挿し込まれることで、前述の清少納言の失敗談がより引き立ち、章段全体のイメージも微笑ましく楽しい印象になっています。

 

個人的には、結構すきな章段ですね。

 

 

もっと枕草子の世界を覗いてみたい方は、こちらからお好みの記事をご覧ください。

春はあけぼの!枕草子WEB辞典【清少納言と中宮定子の世界】
このページでは枕草子に関すること、作者の清少納言や周辺の人物に関してなどの情報を発信しています。基本的な部分からマニアック人物まで、新たな記事を日々配信中ですので、随時追加していきます。枕草子で気になる事に是非お役立てください。

 

 

枕草子 九五段『ねたきもの』原文は、この後に書いてます。

 

 

【原文】 枕草子 九五段『ねたきもの』

人のもとにこれよりやるも、人の返事(かえりごと)も、書き手やりつる後、文字一つ二つ思ひ直したる。

 

とみの物縫ふに、針を引き抜きつれば、はやく尻を結ばざりけり。

また、かへさまに縫ひたるも、ねたし。

 

南の院におはしますころ「とみの御物なり。誰も誰も、時かはさず、あまたして縫ひてまゐらせよ」とて、賜はせたるに、南表に集りて、御衣の片身づつ、誰かとく縫ふと、近くも向はず縫ふさまも、いとも狂ほし。

命婦の乳母、いととく縫ひ果ててうち置きつる、ゆだけのかたの身を縫ひつるが、そむきざまなるを見つけで、とぢめもしあへず、まどひ置きて立つぬるが、御背合はずれば、はやく違いたりけり。

笑ひののしりて、「早くこれ縫ひ直せ」と言ふを「誰、あしう縫ひたりと知りてか直さむ。綾などならばこそ、裏を見ざらむ人も、げにと直さめ。無文の御衣なれば、なにをしるしにてか、直す人誰もあらむ。まだ縫ひたまはぬ人に直させと」とて、聞かねば「さ言ひてあらむや」とて、源少納言、中納言の君などいふ人たち、もの憂げに取り寄せて縫ひたまひしを、みやりてゐたりしこそ、をかしかりしか。

 

おもしろき萩、薄(すすき)などを植ゑて見るほどに、長櫃持たる者、鋤など引き下げて、ただ掘りに彫りて去ぬるこそ、わびしうねたけれ。よろしき人などのある時は、さもせぬものを、いみじう制すれど「ただすこし」など、うち言いて去ぬる、言ふかひなく、ねたし。

 

受領などの家にも、もののしもべなどの来て、ためげに言ひ、さりとて我をばいかがせむ、など思ひたる、いとねたげなり。

 

目まほしき文などを、人の取りて庭におりて見立てる、いとわびしくねたく、追ひて行けど、簾(す)のもとにとまりて見立てるここちこそ、飛びも出でぬべきここちすれ。

 

※読みやすさを考慮し、適宜改行しています。

 

枕草子を原文と現代語で手軽に楽しみたい方にはコチラがおススメです。

では、今回はこの辺で!ありがとうございました。