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拓麻呂でございます。
今からおよそ千年前の平安時代に書かれた世界最古のエッセイと言われる『枕草子』。作者はご存知『清少納言』。
そんな枕草子に記されたお仕事中のある出来事。
清少納言のお仕事は、中宮定子(ちゅうぐうていし)様にお仕えする女房です。
※中宮とは天皇のお后様のこと、女房とは中宮の身の回りのお世話や、話し相手をする女性たちの総称。
この女房たちの仕事のひとつに『お裁縫』があります。
古文? 品詞分解? 歴史的仮名遣い?
そんな専門知識が無くたって『枕草子』は楽しめる!!
今回はこの裁縫に打ち込む清少納言の失敗談と、女房たちのほっこりするようなやり取りをお伝えします。
この章段の原文から確認したい方は、こちらからご覧ください。

~お裁縫から見えてくる女房たちの賑やかな日常~
裁縫を終えた清少納言の愕然とする姿!
今日も仕事に精を出す清少納言。
急遽、必要になった着物を縫う事になり、女房たち総がかりでお裁縫を始めました。当然、清少納言もその中に加わっています。
彼女は凄まじい集中力で、誰よりも早く縫いあげることが出来ました。
『私が一番乗りです』
得意気に針と糸を引き抜く清少納言!しかし・・・
縫い付けた糸は、針と一緒に全部すっぽ抜けてしまったのです。
どうやら糸のお尻部分を結んでいなかったらしい・・・・
そこには、開いた口が塞がらない清少納言。そして笑い転げる女房たちの姿がありました。
なお、彼女は先日、着物を裏返して縫ってしまうという失敗をしたばかりでした・・
失敗した縫物に笑い転げる清少納言
今日も急ぎのお裁縫。
清少納言は先日のような恥ずかしいことにならないよう、しっかりと糸のお尻を結んで裁縫に臨みます。
『手分けしてすぐに仕上げよ』
とのことなので今回も女房たち総がかりで裁縫に打ち込んでいます。
みんな一番に縫い上げようとして競争になっているその姿はまるで子供のよう。
すると『命婦の乳母(みょうぶのめのと)』という女房が一番に縫い上げました。
ところが、急いで縫っていたので、縫い目がずれていました。
これには、女房一同大爆笑。清少納言も前回のお返しとばかりにゲラゲラ笑っています。
ある女房が『早く縫い直してください』と促しましたが、命婦の乳母は認めようとしません。
『柄物の着物なら模様がズレてしまうから直すのも納得ですが、この着物は無地ですよ。何を目印に縫い直せと言うのですか!』
命婦の乳母の負け惜しみです。彼女はさらに続けます。
『まだ縫い終えていない人が直しなさいっ!!』
失敗を認めない命婦の乳母。
そんな状況の中、源少納言と中納言の君と言う二人の女房が、大人の対応を見せます。
「急ぎのお召し物なのに、そんなこと言ってる場合ですかっ!」
源少納言と中納言の君は不機嫌そうな顔で、しぶしぶ縫い直しました。
裁縫は平安女性の必須教養
このように、枕草子には裁縫の一コマが記されています。
平安時代の女性は、平仮名が書けること、和歌が詠めること、琴などの楽器に精通していること、そして裁縫が上手であることが必須教養とされていました。
枕草子には、女房たちが誰よりも早く縫い上げようと躍起になっている姿が書かれていますが、これは彼女たちのプライドを賭けた真剣勝負だったのかもしれません。
それだけ裁縫は、当時の女性にとって大切な技術だったと言えるでしょう。
しかし、そんな真剣勝負の中にも、女房たちの楽しい笑い声が聞こえてくるところが枕草子の魅力なのです。
糸が抜けて愕然とする清少納言の姿。
子供のように夢中になって裁縫に打ち込む女房たちの姿。
命婦の乳母の失敗に笑い転げる女房たちの姿。
そしてヘソを曲げながら縫い直す二人の女房の姿。
実に愉快で賑やかな光景が頭に浮かんできます。
清少納言はこの一連の出来事を、このように締めくくっています。
『をかしかりしか(面白かった)』
参考:枕草子 九五段『ねたきもの』より

他の古典にも見える裁縫の一コマ
なお、枕草子とほぼ同時代に書かれた他の古典にも、裁縫に関する内容が散見されます。
『蜻蛉日記』には作者の女性が夫 藤原兼家から裁縫を依頼され、それを断る内容が書かれています。
しかし兼家は妻の裁縫の実力を見込んで何度も依頼してきたようです。
このように蜻蛉日記からも、裁縫が女性の必須科目であり、魅力のひとつでもあった事が窺えます。
やはり裁縫は、当時の女性にとってプライドを賭けた大事な教養だったようですね。
もっと枕草子の世界を覗いてみたい方は、こちらからお好みの記事をご覧ください。

では、今回はこの辺で!ありがとうございました。