ご来訪ありがとうございます。
『清少納言に恋した男』拓麻呂でございます。
そんな『清少納言』が千年前に書いた作品が『枕草子』。
今回は、枕草子に書かれている清少納言のプチ旅行記です。
そのタイトルは『五月の御精進のほど』。全三百段から成る枕草子の中でも、屈指の明るさで読む者を楽しませてくれる章段です。
清少納言は旅行の目的そっちのけでイタズラ三昧。
帰宅後にはご主人様である『中宮定子』と意地の張り合い。
枕草子の明るさが思いっきり表現されているオモシロ章段です。
では早速、清少納言と一緒にお出かけしてみましょう。
なお原文と詳細な内容はこちらをご覧ください。
枕草子に記された、清少納言のプチ旅行はこのように始まります・・・
いつもと変わらない日常、天気はちょっと曇り気味。そんなある日、清少納言は暇を持て余し、突然思い立ちました。
『みんなでホトトギスの声を聴きに行こう!!』
ホトトギスの声を聴きに行ったはずなのに・・
いざ出発
清少納言の提案に女房仲間たちも賛成し、いざ出発の準備に取り掛かります。
しかし、『私も行く』、『私も連れてって』などと、次から次へと同行を希望する女房たち。
これには、傍らで見ていた中宮定子様も溜まりかねて、『そんなに揃って出かけてはダメです!!』とお叱りを受けたので、三人の女房仲間を従えて出発することになりました。
清少納言たちは、さっそく牛車に乗り込みました。
『しゅっぱ~つ』
ゆっくりと進み始める牛車。
居残ることになった女房たちは恨めしそうに見送っていますが、そんな彼女たちを尻目に、清少納言たちを乗せた牛車は容赦なく出発していきました。
目的地に向かう途中・・・
一路、目的地に向う清少納言と女房たち。
その途中、『馬場(うまば)』という所で、人がたくさん集まって何やら盛り上がっています。
気になった清少納言は牛車の従者に尋ねます。
『何をしているのですか?』
『競射の最中のようです。ご覧になっていきますか?みなさん、もうご着席になっていますよ』※競射は馬に乗って弓を射る行事
従者が牛車を止めたので、清少納言は中から様子を見てみましたが、気になる人もおらず興味が湧きませんでした。
『つまんない。先を急ぎましょう』
再び牛車は進み始めました。
目的地『明順の家』に到着
ちなみに清少納言たちの目的地は、『明順(あきのぶ)の家』という所で、ここでホトトギスの声を聴く予定です。
目的地に到着した清少納言一行は、牛車を降り『明順の家』の見物を始めます。
『明順の家』は田舎風で簡素な作り、しかしどこか風情のある建物でした。
そんな風情ある『明順の家』を堪能していると・・・・
『キョキョキョキョキョキョ』
『キョキョキョ』
『キョキョキョキョキョキョキョキョキョ』
『キョキョキョキョキョキョキョキョ』
『キョキョキョ』
やかましいほど、ホトトギスの声が聞こえてきました。
ホトトギスの声を聴いたので・・・
ちょっとやかましいけど、目的であるホトトギスの声を聴けた清少納言たち。
彼女たちは、ここで一首和歌を詠もうとしました。
ところが・・・・
ここで、少し解説を入れておきます。
この頃(平安時代)の和歌は貴族たちの基本的な教養とされていました。
旅に出かけ、感動したことを和歌を詠むことは、ごくごく当たり前のこと。
今回の場合ですと、旅の目的は『ホトトギスの声を聴くこと』なので、目的を達成した清少納言たちは、その風情を和歌にして持って帰らなければなりません。
現代で言うところの『旅の土産話』と同じような感覚でしょう。
しかし・・・・・・
ここで一首・・・というタイミングで、家の主『明順(あきのぶ)』は、近所の農家の娘を連れてきました。そして、稲を挽く臼などをくるくる回し歌を披露し始めたのです。
普段、宮廷生活をおくる清少納言たちには、この光景が実に珍しく、騒ぎ立てて面白がっていました。
和歌を詠むことなどすっかり忘れ、清少納言は、はしゃぎ始めたのです。
食事に夢中で・・・
やがて、明順は食事の準備を始め、清少納言だちをもてなそうとします。
その時・・・
『はっ!!』
清少納言は歌を詠み忘れていたことに気付きます。
仕切り直してここで一首・・・というタイミングで料理が運ばれてきました。
目の前に準備された食事に目が行ってしまう清少納言たち。
またしても、和歌のことは、清少納言の頭からすっ飛んでしまいました。
明順が摘んできたという蕨(わらび)の料理は実においしそう。
しかし、そんなにガツガツ食べるのは、みっともないので食事を前にモジモジしていると、従者が『雨が降りそうです』と伝えてきました。
急いで帰ることにした清少納言ですが、まだ歌を詠んでいないことを思い出します。
『明順の家で一首詠んでいきましょう!』
しかし傍らの女房が、
『ひと雨きそうだし、早く帰りましょうよ。和歌なら帰りの道中でも詠めるでしょう』
と言うので、和歌は詠まず、牛車に乗って帰ることになりました。
卯の花に夢中で・・・
帰りを急ぐ清少納言一行。
今度こそ、ここで一首・・・というタイミングで彼女の目に飛び込んできたのは、見事に咲き誇る『卯の花』。
清少納言は牛車と止めさせ、卯の花に見とれています。
彼女たちは牛車を降り、卯の花を摘んで牛車に飾り付け始めました。
するとみるみる内に、牛車は卯の花で埋め尽くされ、まるで『卯の花の垣根』を牛が引いているような珍妙な光景になってしまったのです。
これには一同大爆笑。
当然ながら、笑い転げる清少納言の頭には、もう和歌のことなどありませんでした!
火が付いた清少納言のイタズラ心
『卯の花の垣根』になってしまった牛車。
清少納言は、この妙ちくりんな牛車を、すれ違う人に見せて驚かしてやろうと思ったのですが、そんな時に限ってなかなか人とすれ違わない。
これでは、どうにも面白くないと思った彼女は一計を案じます。
『この牛車を、高貴な身分の方に見せつけてやりましょう。人とすれ違わないのなら、こちらから出向いてやるまで!』
そう言って清少納言一行は、たまたま近くにあった『藤原公信(ふじわらのきんのぶ)』邸に牛車を乗りつけ、彼を呼び出したのです。
もう、和歌のことなど完全に忘れていました。
一条大路を全力疾走!藤原公信!!
しかし、公信はなかなか家から出てきません。
すると、使いの者がやってきて、
『もうしばらくお待ちください』
とのこと。
どうやら、公信は完全にくつろでおり、大急ぎで身なりを整えているようです。
待ちくたびれた清少納言は、
『もう待ってられない!』
そう思って、牛車を走らせ始めました。
突然走り出した牛車に使いの者はビックリ仰天!!急いで公信の所に戻ります。
走り去った牛車の事を聞いた公信は大慌て。
『なぬっ!!』
彼女たちをさんざん待たせた挙句に逃げられたとあっては、後で何を言われるか・・・ましてや、相手はあの手強い清少納言率いる宮廷の女房たち。
焦った公信は、着の身着のまま外へ飛び出しました。
『お待ちくだされっ!お待ちくだされぇぇっ!』
公信は中途半端な身なりで、着物の帯を結びながら、必死になって追いかけてきます。しかも公信の家来も三、四人、靴も履かず素足のまま飛び出してきました。
帯を結びながら全力疾走で猛追してくる公信と、裸足の家来たち。
しかも、ここは平安京の大通り『一条大路』!
そんな大通りを、帯を結びながら必死で走っている貴族の姿は何とも滑稽だったことでしょう・・
そんな公信の姿を見て、牛車の中で笑い転げる清少納言と女房たち。
しかし、清少納言のイタズラ心は、さらに勢いを増していきます。
『もっとスピードを上げよ!!』
牛車はさらにスピードを上げて、どんどん進んでいきました。それでも公信は凄まじい脚力で、着かず離れず追い掛けてきます。
やがて土御門(つちみかど)に到着し、ようやく牛車が止まったことで、なんとか追いついた公信。
『ハァハァ・・・』
当たり前ですが、公信は大きく息を切らしていました。
和歌の事を思い出す清少納言
息が切れてゼェゼェ言っている公信。
しかし、彼は卯の花まみれになった牛車を見て、
『なんと妙ちくりんな牛車でしょうか!』
と言って笑っていました。
やがて、裸足の家来も追いついてきて、一緒になって笑っています。
『ところで・・・』
公信が尋ねてきました。
『どこかにお出かけだったのですか?是非、和歌などお聞かせ頂きたい!』
『!?』
清少納言は気付きました。和歌を詠んでいなかった事に・・・
参考:枕草子 九九段『五月の御精進のほど』より
五月の御精進のほど
以上が、清少納言のプチ旅行の顛末です。
これは『五月の御精進のほど』という章段で、枕草子の中では比較的有名なお話です。
ホトトギスの声を聴きに行って和歌を詠む予定でしたが、事あるごとに他に目移りし、結局最後まで詠むことが出来ませんでした。
このあと清少納言は定子の所に帰るのですが、和歌を詠まずにのこのこ帰ってきたことで、定子様が不機嫌になってしまいます。
これが、この後のポイントになってくるのでちょっと覚えておいてください。
そして、もうひとつ。藤原公信はどうなったのか?この後いよいよ雨が降り出し、彼はびしょ濡れになりながら家路につきます。
その去り際に、牛車の卯の花をひとつ持って帰るのですが、これが後のポイントになります。
和歌を詠まなかった清少納言と、呆れた定子様の間にどのようなやりとりがあったのか?また卯の花を持ち帰った藤原公信はの真意とは?
『五月の御精進のほど』はまだまだ続きます。
もっと枕草子の世界を覗いてみたい方は、こちらからお好みの記事をご覧ください。
では、今回はこの辺で!ありがとうございました。