櫛名田比売(クシナダヒメ)は、日本神話に登場する神様で、豊穣の女神として知られています。
昨今では日本神話の神様としてのクシナダヒメよりも、ゲームなどに登場するキャラクターとしてよく知られているのではないでしょうか?
古事記での神名の表記は「櫛名田比売」。スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治した有名な神話のヒロインとして登場します。また、ヤマタノオロチ退治以降はスサノオの妻となり、その子孫であるオオクニヌシが日本国を作り上げました。
この記事では、そんな「クシナダヒメ」の、
・登場する神話
・神様としての性質(神格)
などをお伝えしていきます。ぜひ参考になさってください。
クシナダヒメのプロフィール
まずはクシナダヒメのプロフィールを確認していきましょう。
【神名】
櫛名田比売、奇稲田姫(クシイナダヒメ)、稲田媛(イナダヒメ)など【神格】
豊穣の女神【家族構成】
父:アシナヅチ、母:テナヅチ、姉:ヤマタノオロチに食べられた7名、夫:スサノオ
【お祀りしている主な神社】
八坂神社(京都府)、氷川神社(埼玉県)、八重垣神社(島根県)など
【略伝】
スサノオのヤマタノオロチ退治神話に登場するヒロイン。豊穣と子育てを司る女神様です。7人の姉たちが次々とヤマタノオロチに食べられてしまい、いよいよ最後に残ったクシナダヒメも危なくなったところに、たまたまスサノオが通りかかったことで、ヤマタノオロチ退治の神話へと発展していきます。ヤマタノオロチとの決戦の際、クシナダヒメはその身を櫛に変え、スサノオはその櫛を頭に刺しともに戦いました。
ヤマタノオロチ退治にしか登場しないので出番は少ないながら、後にオオクニヌシへと繋がる家系の祖であるため、神話における重要度は高いです。
古事記ではクシナダヒメが戦っている神話はありません。しかしながら、櫛になってスサノオと共にヤマタノオロチとの決戦には参加しています。(詳しくは後述)
スサノオが一目見ただけで結婚を申し込むほどの美しさです。
有名なヤマタノオロチ退治の神話に登場すること、また昨今ではゲームなどの影響により、比較的高い方だと思われます。
危ないところをスサノオに助けられた末に結ばれる、と言う王道のヒロインポジションにいる神様です。(詳しくは後述)
夫のスサノオと険悪になる神話などは無いうえ、子も授かっているので決して悪くはないと思われます。
クシナダヒメの家系図
系図の通り、 クシナダヒメは「アシナヅチ」と「テナヅチ」という神様の娘で、「オオヤマツミ」という神様の孫にあたります。
オオヤマツミは日本における山の神の頂点に君臨する神様なので、クシナダヒメは偉大な祖父を持っていたことになります。
そんなクシナダヒメは、とある出来事がきっかけとなり、日本神話では非常に有名な神様「建速須佐之男命(スサノオ)※」の妻となったのです。
そのとある出来事とが、かの有名な「ヤマタノオロチ退治」です。
※スサノオは天照大神(アマテラス)の弟
古事記に描かれるクシナダヒメの神話
古事記の中でクシナダヒメが登場するのは「ヤマタノオロチ退治」の神話のみとなります。ここではクシナダヒメの登場する神話を要約して分かりやすくお伝えしていきます。
ヤマタノオロチに喰われそうになったクシナダヒメ
天上世界を追放されたスサノオが川岸を歩いていると、「アシナヅチ」と「テナヅチ」と名乗る老夫婦が泣いていました。
老夫婦にはもともと8人の娘がいたのですが、毎年ヤマタノオロチがやってきて1人ずつ食べられてしまい、残る娘はクシナダヒメただ一人となってしまいました。
クシナダヒメ残すは私一人のみ・・・
そして、今年もヤマタノオロチがやってくる季節となり、クシナダヒメも間もなくヤマタノオロチに食べられてしまうところだったのです。
ゆえに、アシナヅチとテナヅチは、クシナダヒメとの別れを惜しみ泣いていたのです。
このような危機的状況を知ったスサノオは、クシナダヒメと結婚することを条件に、ヤマタノオロチ退治を自ら買って出ました。
スサノオ私がヤマタノオロチとかいう化け物を退治してみせよう!
スサノオはクシナダヒメを櫛(くし)に変えて己の頭に刺し、いざヤマタノオロチとの対決に挑みます。
スサノオはアシナヅチ&テナヅチに指示し、アルコール度数の強い酒を用意させて、8つの器に酒をなみなみと注いでヤマタノオロチが現れるのを待ちました。
するとヤマタノオロチが現れて、8つの頭を器に突っ込み、勢いよく酒を飲み始めます。
強烈な酒を飲んでしまったヤマタノオロチは酔っぱらって寝てしました。
ヤマタノオロチが泥酔したことを確認したスサノオは、剣を抜いて斬りかかりました。
そして、スサノオは酔っぱらって寝ているヤマタノオロチを見事に退治したのです。
こうしてスサノオとクシナダヒメは晴れて結ばれることとなりました。
以上がクシナダヒメの登場するヤマタノオロチ神話のおおまかな内容になります。
勇者(スサノオ)が強大な敵(ヤマタノオロチ)に立ち向かい、ピンチに陥ったお姫様(クシナダヒメ)を救い最後は結ばれるという、英雄譚のお手本ような展開ですね。
神話上でのクシナダヒメは、ヤマタノオロチ退治におけるヒロインとしての役割が大きく、これ以外の神話には登場していません。
また、クシナダヒメが会話しているシーンなども特になく、テナヅチ&アシナヅチとスサノオとの会話の中で名前が出てくるだけです。
なので、古事記での登場シーンはかなり少ないのです。
一応、「櫛(くし)」になったクシナダヒメをスサノオが身に付けて戦ったいるため、クシナダヒメの霊力を纏って一緒に戦ったという捉え方もできなくはないかもしれません。(おそらく「クシ」ナダヒメだから「櫛(くし)」になったと思われる)。
余談ですが、スサノオはヤマタオオロチが寝ている内に始末しているので、現在の価値観からすると正々堂々と戦ったとは言いづらいかもしれません。
しかし、昔は「勝つための知恵」として称賛されるべきものだったようです。
クシナダヒメの神格
クシナダヒメは「豊穣の女神」として広く知られています。
神名の「クシナダ」とは美しい田んぼの意味とされ、日本書紀では「稲田媛(いなだひめ)」とも呼ばれており、より豊穣の女神らしい神名だと感じられますね。
ヤマタノオロチは農耕の神である水神(蛇の姿をしていた)であったとも言われていて、一説にはクシナダヒメは田の神様に仕える巫女を象徴しているのではないとも言われています。
また「豊穣の女神」であり性質上、「子供を豊かに育てる」といった解釈もあります。
実際、スサノオとの間に授かった子供の血筋は、後に「大国主(オオクニヌシ)」へと繋がっていき古事記では極めて重要な位置を占めることとなるのです。
このようなことから、クシナダヒメには「子育ての神様」や「夫婦円満の神様」といった神格も存在しています。
クシナダヒメのまとめ
以上、櫛名田比売(クシナダビメ)についての解説でした。
豊穣の女神としてだけではなく、子育ての神様としても信仰を集めているクシナダヒメ。まさに母なる大地を象徴する懐の深い女神様であるように感じます。
クシナダヒメは夫のスサノオと一緒に祀られていることが多く、悠久の時を経てなお、夫婦仲良く日本の行く末を見守ってくれているのかもしれませんね。
日本神話は、クシナダヒメ以外にも魅力的な神様たちで溢れかえっています。ぜひ今まで以上に日本神話に触れて楽しんで頂ければと想います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【参考にした主な書籍】